その手法とは、言葉に縛られる前に、五感と記憶と経験によってまず撮影を試みる方法である。そして撮影した写真を徹底的に見返すことにより、言葉を浮かび上がらせるのだ。
このとき最初に、浮かび上がってきたのは、匂いと記憶の結びつきである。
雨が降った後のアスファルトの匂い、覚えていますか?
撮影している最中の匂いを頭は覚えていて、そして、立て続けに言葉が頭に広がった。小さい頃、アスファルト、公園、夕立後の匂い、太陽に照らされた、北千住駅の階段を上り地上へ、ビル、ガラス、反射。
頭に広がった言葉は、一つのシーンではなかった。このことが、多くの共感に繋がるのではないかと確信したのは、嗅覚から聴覚へと思考をシフトしたプロジェクト「VOICE」としてまとめた、もう少し後のことだった。
「みぢかなところ」前田有歩作品展 Aug. 13–Sep. 1, 2013
東京から来て 自分でお米をつくった
水がたくさん必要だった
堰はつながっていた
西蔵王まで
みんなで 堰の掃除をした
みんなで 沼の周りの草刈りをした
いつしか みぢかになった そんなところ
(つづく)